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耐震等級3と固有周期とキラーパルスの関係 | 熊本地震から7年

構造のお話全て
2023/04/15

こんにちは!大阪・奈良で高断熱高耐震な木の家専門|新住協Q1.0住宅マスター会員で木構造マイスター準1級のDAIKOstyle西田です。

熊本地震から7年です。

2016年4月14日に前震、その2日後の16日は本震が九州地方を襲いました。前震、本震ともに最大震度7を観測した大地震は、死者273人・重軽傷者2809人という人的被害に加え、建物も全壊8667棟を含む20万棟以上が破損するという甚大な被害をもたらしました。

最も被害が大きかったのが熊本県で、特に前震・本震ともに震度7を観測した世帯数1万1477(2015年)の益城(ましき)町は、全壊3025棟、半壊3214棟、一部損壊4344棟の計約1万棟と、被害が突出しています。

熊本地震では場所によって地震動の周期はさまざまでしたが、益城町周辺などで軟弱地盤による固有周期1~2秒というキラーパルスが観測されています。木造建物の被害が多くなった要因は、キラーパルスによるもの考えられていますが、耐震等級3と固有周期とキラーパルスについてお話ししたいと思います。

固有周期とは?

固有周期とは、上の図のように物体がA点からB点まで移動し、A点に戻るまでの周期(時間)のことを言い、物体の揺れに抵抗する力や、剛性のたかさによって、その周期が変わってきます。

周期が長いということは、揺れ幅が大きいということになり、逆に 周期が短いということは揺れ幅が少ないということになります。

物体の質量が大きければ、固有周期は長く(揺れ幅が大きく)、小さいものは、固有周期は短く揺れ幅が小さく)なり、

剛性(粘り)の小さいものは、固有周期は長く(揺れ幅が大きく)、剛性(粘り)の大きいものは固有周期は短く揺れ幅が小さく)なります。

耐震等級3の建物の固有周期

建物でいうと、壁の量が多いということは、

・耐力が大きい = 地震力に抵抗する力を大きい

・剛性が高い  = 変形しにくい

これは、耐震等級3の建物は地震力に耐える耐力壁が多く、強度が強く、剛性が高いため変形しにくいため、固有周期は短くなります。以前、固有周期を調べる微動探査についてはブログで紹介しているので、併せてお読みください。

耐震等級3の建物の固有周期は0.1~0.3秒となっています。それに比べ、耐震性の低い建物は0.3~0.5秒となっており、揺れ幅が大きくなっています。

 

固有周期の揺れ幅のイメージ

固有周期が短いということは、小刻みに『カタカタカタカタッ』と、揺れるイメージです。

固有周期が長いということは、ゆ~っくりと『グ~ラ、グ~ラ』と、揺れるイメージです。

このイメージを覚えておいてください。

 

地震力とは

地震力についても説明します。地震力とは、建物の質量×加速度で 重い建物や加速度が大きいと、地震力(水平荷重)は大きくなります。

固い地盤と軟弱地盤の耐震性能

固い地盤の固有周期は0.4秒ほど、この固い地盤は、固有周期が短いため、揺れ幅が短く小刻みに『カタカタカタカタッ』と揺れるので、その上に立つ重い建物は、揺れ幅は少ないものの加速度が大きくなっていくため地震力が大きく加わります。

逆に、軟弱地盤では、どうか?軟弱地盤の固有周期は0.8秒。ゆ~っくりと『グ~ラ、グ~ラ』と揺れるため、建物も加速度は少ないものの揺れ幅は大きく、左右に揺らされた建物は変形量が大きくなります。揺らされてもとの形に戻るまで弾性といい、限界を超え元の形に戻らない状態を塑性といい、破壊されてしまいます。

やっぱり耐震等級3が必須

つまり、固い地盤では建物の地震力が大きくなり、地震力に耐えるには強度・耐力が必要となり、

軟弱地盤では建物の変形量が大きくなるので、破壊されないためには剛性(硬さ)が必要になります。

結論的は、固い地盤、軟弱地盤であっても、耐力と剛性の強い耐震等級3の耐震性能が必要と考えられます。

 

キラーパルスが危険な理由

軟弱な地盤でも固有周期が1~2秒のものをキラーパルスといいます。

このキラーパルスが何故危険かというと、固有周期が長いということは、揺れ幅が大きいということで、建物に与える変形量が大きくなります。耐震等級3の建物の固有周期は強度・剛性が強いため0.1~0.3秒と短く、たとえキラーパルスにより大きく揺らされたとしても、揺れに耐える力が強いため、変形量は小さいので、塑性化(破壊される)することはありません。

しかし、耐震性能の低い建物(固有周期0.3~0.5秒)はキラーパルスにより、大きく揺らされ、それに耐えうる耐力と剛性がないため大きく変形=塑性化(破壊)されてしまいます。

熊本地震では、益城町周辺などでキラーパルスが観測されており、耐震性能の低い木造住宅は4月14日の前震で大きくダメージを受け、塑性化したことで、建物の固有周期が1~2秒に伸び、16日の本震で地盤のキラーパルス(1~2秒)と共振し大きな被害を出しました。

耐震等級3の優位性

しかし同エリアにたつ耐震等級3の木造住宅はほぼ無被害であったことから、結果として耐震等級3の優位性が認めらたということになりました。益城町中心部に16棟あった耐震等級3の家が、2棟は小破半壊、軽微一部損傷があったものの、そのまま住み続けられています。震度7でも『損傷防止性能』が証明されました。

建築学会により実施された益城町中心部の悉皆調査の結果、『耐震等級3』の木造住宅は大きな被害がなかったことが証明されました。

※悉皆(しっかい)調査:調査対象物件をもれなく調査する方法

耐震等級3の必要性については、こちらのブログでも記載しております。

結論:キラーパルスにも耐震等級3

阪神・淡路大震災(1995年、兵庫県南部地震)では、熊本地震よりも多くの木造住宅に倒壊被害が生じました。これもキラーパルスによるものと言われています。30年以内に起きるとされている南海トラフ地震。関西では過去に阪神・淡路大震災を経験しています。当時の地震を乗り越えた建物も、もしかすると度重なる地震のために塑性化しており固有周期が長くなっている建物もあるかもしれません。そこにとどめを刺す南海トラフ地震を想像しただけでも恐ろしいです。

新しく家を建てる際は、かならず耐震等級3で。リノベーションの場合は耐震補強で評点1.5を目指す。

備えあれば憂いなし。地震への備えは、しっかりとしておきたいものですね。

実務者としては、どんな規模の建物であってもちゃんと構造計算をして耐震等級3の建物を設計するのが当然の責任だと思っています。

月一回、構造についての家づくり相談会をしております。イベント情報をチェックしてみて下さい!

DAIKOstyle 西田

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