こんにちは、東大阪で高断熱高気密な木の家を真面目に建てている新住協Q1.0住宅マスター会員で準1級木構造マイスターの大幸綜合建設住宅事業部DAIKOstyle西田です。
魅力ある住宅をつくるには、設計の正しい手順と方法があります。
それはまず間取りから考えることをやめることから始まります。
多くの人がプランニングをするときに平面的な間取りから考え始めます。しかし、それだと1階と2階で窓の位置がバラバラ。
メインとなるファサードが妙に背が高く、間延びした印象に。屋根の位置が妙に高く、頭でっかちになったりと、立面的に美しくない住宅になってしまいます。
そればかりか、構造を無視した間取りありきの手法では、柱の上下階の位置がずれ直下率が悪くなり耐震性能低く、また力業の構造計算に頼ると梁せいが大きくなりコストが上がってしまいます。
また周辺環境を考えていない、日当たりが悪い、Ua値が高くても日射取得ができない といった具合では光熱費が高く決して快適な住空間とはなりえません。
魅力的な形態や空間とは、『内と外との境界部のデザイン』ができていることが大切です。建築にとって重要な要素です。
優れた建築は内外の境界部に建築としての魅力が凝縮されています。
旧井上房一郎邸。大きな平屋にゆったりとした勾配屋根がかかっています。
光を取り込むための独特な境界のデザイン。屋根断面と架構が完全に一致しています。
中間領域とは、屋根のかかった半外空間。自然を享受するためのしかけとなります。
間取りありきの設計ではなく、屋根や中間領域を考え、窓や架構を整理してから間取りを考えます。
設計の正しい手順と方法をとることで、性能とデザインを両立した魅力的な住宅をつくることができるのです。
はじめに素材を決める
外壁や内装の床材などの素材を決めます。特に外壁は重要です。左官壁、木板貼り、金属の外壁など様々な仕上げがあります。屋根や中間領域を考えるということは、建物の外観の形を考えるということです。外壁の仕上げ材によって外観のイメージは大きく左右されますので、予め外壁の素材を決めておくことが大切です。
また名前に〇〇風や〇〇調という言葉がつく材料は使いません。例えば、タイル風サイディング。無垢風フローリング。左官風ビニルクロス。木目調のドアや建具。つまり、新建材という材料です。これらは安価で施工性が良いものが多い反面、経年により劣化した後は、廃番になっていたりと丸ごと交換を強いられることも多くなります。例えばオーク調で揃えられたドアのうち1か所だけ壊れてしまったとします。その商品が廃番になっていた場合、その1か所だけはほかのドアと違うデザインや柄になってしまいます。〇〇風や〇〇調ではない、見た目だけを模したイミテーションは本物の無垢材や自然素材の持つ魅力に勝ることはなく、スギやヒノキの無垢床や漆喰などは経年で劣化というよりも、いい具合にエイジングされていきます。また廃番もなく、修理や部分的な交換も違和感なく行えます。
素材が決まれば、敷地の与条件を確認します。与条件とは敷地の立地や近隣との関係、周囲の景色、法規などの規制です。詳しくは、過去のブログの『設計のお話。まずは敷地をよく知る。』をお読みください。
屋根を考える
間取りを考える前に、家の形を考えます。つまりは屋根の形を考えることから始めます。同じ間取りでもいろいろな形の屋根がかけられます。さらに軒の出、勾配、高さなど無数の選択肢があり、自由度が高く、建物の印象や個性、格好良さを決める一番の要素は屋根であると考えますので、真っ先に屋根からデザインしていきます。ただし、好き勝手にデザインしていいというわけではなく、敷地の特性、近隣との関係、日の当たり方、斜線制限などを考慮して屋根の形を決めます。
・・・切妻屋根
日本の伝統的な建築の屋根は、今でいうパッシブデザインに当てはまる形状をしています。日本は比較的雨が多いので、古い建築は低くて深い軒を持っています。軒や庇は雨露をしのぐだけでなく、夏の暑い日差しも防ぐ役割も果たします。古い建築からも見られるように屋根の形はオーソドックスで普遍的な切妻が雨仕舞いの面からも、架構の面からも切妻を基本として考えます。
切妻屋根には妻側と平側があり、どちらを正面に向けるかによっては外観の印象も、間取りも変わります。太陽光発電や屋根利用の集熱装置などの利用を考えると屋根の棟は東西にとり軒は南北に取ることが効率が良くなります。
切妻の他にも片流れ屋根や差し掛け屋根、大屋根なども選択肢としてあります。
・・・片流れ屋根
片流れ屋根は形状はもっともシンプル、南面に傾ければ太陽光パネルを搭載する量ももっとも多くなります。ロフトや北側のハイサイドライトを取るのも適しています。ただし、北側斜線がある場合や水上の雨仕舞には注意が必要です。
・・・差し掛け屋根
差し掛けは2枚の屋根を違う高さでかけたもので、高さのずれた部分に開口を設けることで、そこからの採光や換気が可能。北側斜線などの対応、住宅密集地で採光をハイサイドライトで得るときなどに効果的です。
・・・大屋根
大屋根は建物の構成要素の全体を覆う屋根のこと。2階から1階にまたがって屋根を掛けます。この時、1階の部分は勾配天井にすることができ、高さのある空間を取ることが可能です。
心地よさを決める中間領域
屋根の形と同時に考えるのが、中間領域です。『快適な内外の境界部をつくること』は、建築の永遠のテーマです。
中間領域とは、縁側や中庭のような、内部と外部の要素を併せ持つ半分外のような半分内のような空間です。外と内と分断された空間からは人は落ち着きを得られず、開口部周辺に凹凸をつくり、『開口』に奥行を持たせると内外の境界があいまいになり、そのあいまさが、外にいても中にいる安心感、内にいても外にいるような開放感が生まれ、豊かで快適な暮らしができるようになります。
屋根と中間領域が決まると家の形が決まります。
窓も間取りからではなく、立面から考える
家の形が決まると、窓の位置を考えます。窓の位置を考えるということは、家の顔をデザインするということです。人の顔に例えるとすると、屋根や中間領域から考えた家の形は、顔の輪郭。窓は、目鼻に相当します。目や鼻は人の印象を決める最も重要なパーツです。整ったデザインにするためにも窓の位置はとても重要になってきます。間取りから考えていくと、これがうまくいきません。まるで目隠しをして失敗した福笑いのようなことになってしまいます。窓の計画も、周囲の状況、抜け感、借景などを外的要素が重要ですから自ずと間取りからではなく外観から決まっていきます。窓の上下や横の連続性、バランスを整えてより美しい外観にしていきます。そして東西南北、上下と多方向にとることで、光の回る明るく開放的な空間となります。
架構も間取りに先行する
屋根と中間領域により家の形が決まり、窓により家の顔=ファサードが決まりました。さぁ、いよいよ間取り!と思いきや、まだ考えません。次は構造です。家の形が決まると、必ず変曲点があります。切妻屋根だと棟です。棟をささえる2階の柱が必要です。2階の柱の下には1階の柱がないといけません。という具合に、これも間取り先行で考えると、柱の直下率が悪く、構造的に弱い建物となります。建築の3要素として有名な「強・用・美」は、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが著書「建築十書」で著した言葉ですが、この「強・用・美」をすべてを兼ね備えるためには、構造をおさえておかなければなりません。
間取りは、できるだけ『間取らない』
間取りを考える前に、屋根、中間領域、窓、構造といろいろなことを考えてきました。ようやく間取りかと思えば、えっ!?できるだけ間取らないっ!?という声が聞こえてきそうですが、これまで考えてきた『内と外とのつながり』をできるかぎり維持するために、プライバシーが確保できる程度にできるだけ間仕切りを最小限に抑えます。できるだけ間仕切らないことで、無駄な廊下やスペースを省き、『抜け』や『回遊動線』で広がりをつくり、『たまり』となる人の居場所を確保できれば、生活のあらゆるシーンに対応できるのです。
DAIKOstyle 西田
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